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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2433号 判決 1959年6月15日

平和相互銀行

事実

控訴人(一審原告、敗訴)佐竹一郎は、被控訴人株式会社平和相互銀行から金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き強制執行を受けた。ところで右公正証書には、被控訴銀行が昭和二十九年三月十六日訴外株式会社三興社に対し金百五十万円を貸与し、控訴人は該債務の連帯保証人となる旨並びに債務者及び連帯保証人は本契約に基く債務を履行しないときには直ちに強制執行を受けても異議はない旨認諾した、との記載があるが、控訴人としては、右公正証書記載の消費貸借契約が結ばれたことを知らず、まして該債務について連帯保証契約を結んだことも、執行認諾の意思表示をしたこともない。すなわち、右公正証書作成嘱託については訴外原田幸三郎が控訴人の代理人と称してこれに関与しているが、控訴人は同人と一面識もなく、且つ同人に対してこのような事項について代理権を附与したこともない。従つて、右公正証書はその内容が真実に符合せず、且つ代理権のない者の作成した無効の公正証書であるから、被控訴銀行より被控訴人に対する右公正証書に基く強制執行は許されない、と主張した。

被控訴人株式会社平和相互銀行は本件の事実関係につき、被控訴銀行は昭和二十八年十二月二十四日訴外三興社に対し金百万円を貸し付けたところ、翌二十九年三月十三日同会社より更に金百万円の追加貸付申込があり、この時控訴人は前の百万円に加え、合計二百万円の債務について新たに控訴人所有の建物を担保に供し、且つ連帯保証人となることを承諾し、公正証書作成委任状に記名捺印し、これを控訴人の印鑑証明書及び担保物件の登記済権利証と共に被控訴銀行に交付したが、被控訴会社において調査の結果、新規申込百万円に対し五十万円を融資することに決定し、控訴人より新たに担保を提供することは不要となり前の百万円と合わせ金百五十万円について公正証書を作成したものであつて、その後主債務者及び他の連帯保証人から数十回に亘り入金があり、現在元本残額金三十三万二千六百四円となつている。そうして、本件公正証書作成に当つて被控訴銀行の職員原田幸三郎が控訴人等を代理しているが、これは該公正証書作成委任状事項第十一条公正証書の作成については主債務者及び連帯保証人は何れも債権者銀行の職員を代理人としてその行為をなさしめることに同意する」によつたものであつて決して無権代理ではない、と主張した。

理由

証拠を綜合すれば、訴外株式会社三興社は昭和二十八年十二月二十四日被控訴銀行から、訴外江副保記外二名を連帯保証人(この中には控訴人は入つていない)として金百万円を借り受けたが、翌二十九年三月十三日更に金百万円の追加借受方を申し込むにあたり、右訴外会社は取引関係のある訴外松下に対し右借受について担保物の提供方を懇請し、もし借受ができれば、松下に対してもその一部を融資する旨を申し出たので、松下は同人の妻の父親である控訴人の印鑑及び控訴人所有の建物の登記済権利証を控訴人の妻佐竹アヤ(松下の妻の母親)から借り受け、右印鑑を使用して控訴人の委任状(但し、松下が控訴人の印を押捺した当時は表面の文言及び日付等の記入はなかつた)及び印鑑証明書を作成し、これらの書類と前記登記済権利証とは松下より株式会社三興社の社員を通じて被控訴銀行に交付されたこと、被控訴銀行は、三興社の新規申込金百万円のうち金五十万円を貸与することとし、昭和二十九年三月二十六日三興社に対し新たに金五十万円を貸与し、前の百万円と合わせ合計金百五十万円について三興社との間に弁済期昭和二十九年五月二十四日期限後の損害金日歩五銭と協定し、三興社を通じて松下より交付を受けた控訴人名義の前記委任状の空白部分に、金額、弁済期その他の記入をなし、これによつて被控訴銀行の職員原田幸三郎を控訴人の代理人とし、控訴人が右債務につき連帯保証をする旨の本件公正証書を作成するに至つたことと、しかるに、松下も、また佐竹アヤも以上の事項について控訴人の同意を求めたことは全然なく、控訴人は以上の事実につき何な関与しなかつたことを、認めることができる。

してみると、本件公正証書中控訴人に関する記載部分は事実に符合せず、且つ控訴人を代理する権限のない者が公証人に嘱託して作成させた無効のものといわなければならないから、被控訴銀行から控訴人に対する本件公正証書に基く強制執行の不許を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであるところ、控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるとしてこれを取り消し、本件公正証書に基く強制執行を許さない旨判決した。

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